大航海時代、15世紀半ばから17世紀半ばまで続いた時代、新大陸発見時(中、南米)ブラジル等の海岸地域に育成していた材を新発見材として本国(スペイン・ポルトガル等)に持ち帰り、材の有する魅力が評価され、当時の王宮・家具等にも利用されてきた材、その代表がブラジリアン・ローズウッドです。

ブラジリアン・ローズウッド(ジャカ・ランダ)について

ブラジリアン・ローズウッドは、植物学上は、ダルベルキア科の”つるさいかち属”になり、世界的に見て”つるさいかち属”の中、熱帯・亜熱帯に約150種を数え、特に東南アジアとアフリカで70%を占めます。この中で美しい杢目と色彩を持つ材を絞り込むと、世界で20種となります。その代表は、アジア地域では、インドローズ・ウッド紫檀であり、南米ではブラジリアンローズ、ココボロが代表と言えます。

分布

樹高35m~40m・直径1mに達する木もかつてあったと言われていますが、通常樹高20m・径40cm~60cm材が平均とされています。分布は、ブラジル東部リオデジャネイロ州から、エスピリサント州・バイア州・ミナスジエライス州、大西洋側の海岸に沿ってかつては繁茂していましたが、都市開発・人工増加・道路網の拡充等により、海岸部近くの森林は、既に気が付けば枯渇状態です。最近になり、慌てて内陸部へ二次林として、点々と残る分布地に植林事業を展開しているのが実情です。

サルバドル港の土場に集められたブラジリアン・ローズウッドの原木

写真①:サルバドル港の土場に集められたブラジリアン・ローズウッドの原木

伐採時の胴割れ部分

写真②:伐採時の胴割れ部分

上記は、とても貴重な写真です。昭和40年~52年まで、日本に輸入されていたブラジリアン・ローズウッドの丸太です(サルバドル港の土場於)。

用途

今ではこの材をブラジルの民族的木材として位置付けされています。高級家具・キャビネット・ツキ板による壁面材。小さな物では、刃物・ナイフの柄・家具の引出し・寄木・象篏材・楽器類の部材です。それに高級ステッキ材です。日本にブラジリアン・ローズウッドが入って来たのは、昭和35年です。ヨーロッパでは、400年前から既に利用されていて、パリ・ベルサイユ宮殿には、ルイ14世のベット・椅子に使われていました。また、ブラジル歴代大統領が使用したとされるピアノが博物館に展示されています。

呼び名

イギリス→ブラジリアン・ローズウッド、フランス→パリサンドル、ドイツ→ジャカランダ・ホルツ、イタリア→パリサンドル、ブラジル→ジャガランダ・カビウナ、音楽関係では、ハカランダと呼ばれています。ブラジル・ポルトガル語圏の中でも、いろいろな現地名で呼ばれ、中には近似種の材にも同名を付けている場合もあります。

ローズウッドの謂れ(いわれ)

ローズウッドの名付けの謂れ(いわれ)は、未だにはっきりしていませんが、次ぎの3つの事柄だと言われています。

  • ①材の芯材皮部から独特のバラの芳香を持つ木であった為。
  • ②切り倒した切り株の木口がまるでバラの花びらの包み込んだ年輪模様を見て(手違い紫檀の紹介ページに掲載している丸太の写真を参考にしてください。)。
  • ③長さ10cm以上の花房を付け、白い花が咲き誇る姿の林木(りんぼく)が満開のバラの大輪を想像させた為(花咲ローズウッドの別名より)。

ラカッポの香りの追究

ラカッポでは、上記①がローズウッドの謂れ(いわれ)と考えます。ローズ類の材を切削時独特の共通した芳香があります。常に材を切削していると、自身の鼻に残ります。京都植物園で2018年に”大バラ展示会”があり、たまたま入園し、500鉢のみごとなバラばかりを観賞しました。丹念に香りを嗅いでいる内、ローズウッドと同じ香りを発するバラ鉢を3種類見つけました。

たまたま学芸員(主催者)と話す機会があり、15世紀から17世紀に、南ヨーロッパを代表とする当時流行していたバラの種類と、私が嗅いだバラ3種と一致した事が、私なりに謎が解けた瞬間です。オールドローズ種と言われるフランス・ポンパ・ドール、ガリカローズ、キャベジンローズの3種です。

ステッキとしてのブラジリアン・ローズウッド

壮年期の材より得られた茶褐色系色の強いブラジリアン・ローズウッドの素材

写真③:壮年期の材より得られた茶褐色系色の強いブラジリアン・ローズウッドの素材

ブラジリアン・ローズウッドのステッキ・シャフト、大曲りステッキの製品・原板の見本

写真④:ブラジリアン・ローズウッドのステッキ・シャフト、大曲りステッキの製品・原板の見本

写真③は、壮年期の材より得られた茶褐色系色の強い素材です。写真④は、ステッキ・シャフト、大曲りステッキの製品・原板の見本です。

ワシントン条約により、現在日本には輸入されていません。音楽関係では、製品として多少緩和されたと聞きますが、ステッキ素材としては昭和50年以前に、日本に入荷した材を求めて探すしか方法が無いのが実情です。

ラカッポでも2~3本の大曲り品しかありません。今後200年の年月を待つ事になる材になりました。

色彩・杢目

比較的若い木から60cm径の壮年木は色調としては、単調な茶褐色に黒の縞目を中心とした色彩です(写真③④を参考に拡大して見て下さいませ)。

イチゴミルクのような筋目が入った紫色の魅力有るブラジリアン・ローズウッドの材

写真⑤:イチゴミルクのような筋目が入った紫色の魅力有るブラジリアン・ローズウッドの材

イチゴミルクのような筋目が入った紫色の魅力有るブラジリアン・ローズウッドの材

写真⑥:イチゴミルクのような筋目が入った紫色の魅力有るブラジリアン・ローズウッドの材

かつて入荷した大径材から得られる杢目柄は、紫褐色を中心に、濃いチョコレート色の中に、イチゴミルクのような縞目や黒を基調とした濃紫赤褐色の変化の多い色調です(写真⑤⑥を参考に拡大して見て下さいませ)。

現在は、若木壮年木から取材された材が市場では大部分を占めています。

よくある質問と回答

Q:ブラジリアンローズウッドの香りはどんな感じですか?

A:ブラジリアンローズウッドを切削時、バラの芳香があると信じ込んでいる方が多いのは間違いです。香木や楠木のような強い香りはありません。古木の古い材の場合、表面を削り湯で濡らして、ようやく甘いかすかな香りがあるに過ぎません。

インドローズウッドも含めて、ローズウッド20種類の内、大体同じような芳香を持った木ですが、ブラジリアン・ローズウッドだけ、特に香りが強い事もありません。

ブラジリアン・ローズウッドの老木は、中央部分が洞(ウロ)化・空洞になっているケースが不思議と多く、外目(そとめ)の成長が早い為、比較的生木時、香りが強いと言われています。最近の若木、壮年木は、白太が多く有り、香りが小さく香りが無い木も多いと聞きます。また、老木のフリッチ材をツキ板に用いられる時、釜で一旦煮沸されます。ツキ板の残り材は、一度煮沸されているので香りはありません。

Q:ブラジリアン・ローズウッドで何かエピソードはありますか?

A:現在の(株)北三(ほくさん)の前身は、北三商会と言われ、創業者は尾山金松氏です(昭和43年4月29日、業界としては高位の勲五等雙光旭日章を受賞しています)。始まりは戦前桐下駄の上に、木材を薄く剥ぐ(現在のツキ板)を開発した方です。昭和30年代から、日本に南米材を輸入する基礎を築き上げた方でもあります。現在南米ボリビアに支社を持っています。銘木合板の先駆けとして、昭和40年代当時の霞ヶ関ビル・東京會舘・新日鉄会長室など、デラックスな場所場所に、この材を使った壁面材が持てはやされました。ブラジリアン・ローズウッドの空前絶後と言われる逸品が、昭和53年10月(株)北三商会により、輸入手当材されました。直径1m10cm・長さ10mという木味も最高級と言われた材です。この1本から、約7200㎡のツキ板単板(2100坪)が取れました。1㎡最高杢3万円(坪10万円)・平均でも18,000円(坪6万円)総額で1億2千万円の売上があったと言われています。昭和53年の参考物価は、ビール240円・タバコマイルドセブン150円・手紙20円(郵便料金)です。高卒初任給が86,000円、大卒初任給が125,000円だった時代です。

今では有り得ないブラジリアンローズウッドの大径材のツキ板

写真⑦:今では有り得ないブラジリアンローズウッドの大径材のツキ板

写真⑦は、今では有り得ないブラジリアンローズウッドの大径材のツキ板です(ハーフ・ロータリー物)。今の茶褐色系ではなく、老齢木は深い紫色の中に赤褐色の杢目ですね(北三商会のツキ板ではありません)。

当時の木材新聞に、この北三商会のツキ板を評してこう書かれています。

金褐色に赤紫の細い縞の入った地肌に、光線のようなフラッシュや入道雲・孔雀の羽根に似た美しい模様が入ったすばらしい杢目

Q:他にエピソードがありますか?

A:私が京都より実家の家業を継いでまもなくの頃のお話です。木場内の銘木店の集まる会(木場銘友会:きばめいゆうかい)があり、4月の隅田川堤の桜を見る会がありました。午後4時頃の集まりで宴会は浅草の奇麗処を座に招いての宴で、この会の会計は全て北三商会の尾山金松氏の支払いでした。直接お顔を拝顔したのは初めてで、ニコニコ顔の好好爺然とした方でした。宴会は浅草の会席料理濱清(はませい)、当時の高級料亭でした。屋形船も濱清所有の新造船で、内装も数寄屋・錆付丸太の継ぎ無しの1本物の棟木10m。棰木(たるき)も錆付小丸太。天井はプリントでは無く、黒部杉野根板の矢羽根・網代張り。これだけ見ても今までこれほどの豪華な屋形船は見た事がありません。

この頃の料亭、片や、浅草田圃(たんぼ)草津亭でも良材を使った普請(ふしん)です。屋形船まで”力(りき)”を入れているのはさすがです。施工は当時永沢工務店と双璧の石間工務店です。数寄屋料亭建築では、東京1、2位と言われます。赤坂・神楽坂・向島でも、数々の作品が残ります。

Q:中南米・南米で他にどんな樹木がありますか?実際にステッキ材として扱った事がある樹木を中心に教えてください。

A:ブラジルは、日本の国土の22.5倍。ヨーロッパ全土より広く、インド・パキスタン・バングラディッシュの3国を合わせた面積の何と2倍もあります。とにかく広い、とにかく森は深く、とにかく真平らな平原があります。日本人には、その広さの想像が付きません。ブラジリアン・ローズウッドを1つ取っても、欧米の400年近くのこの木の利用度です。日本ではたかだか4~50年です。それも途中でワシントン条約で入荷がまったくない状態です。日本人にとっては”幻材”です。ブラジルは植物学上も、まだ分類されていない材も多いと言います。このローズウッド材1つ取っても、近い近似種が今まで3種近く見つかり確認されています。

ローズウッド材の事で、巷(ちまた)では蛍光検査なる物を使い真贋(しんがん)を認定していると聞きます。このような検査は、”群盲象を評す(ぐもうぞうをひょうす):数人の盲人が動物の象の1部分だけを触って全体の象の事を語るという諺(ことわざ)”に等しいと私は考えます。木の多くを見・使い・用いる行為の連続で、初めて真贋(しんがん)ならぬ心眼(しんがん)が養えると思います。

中南米には、魅力有る木が多い事は事実です。ラカッポとして、以下のような材をステッキとして試みました。

  • ①パオサント:南米黒檀と言われ黒檀のような縞目を有する材
  • ②アカプ:南米タガヤサンと言われる材
  • ③セドロ:マホガニー色を有する材
  • ④ペオロショ:パープル・ハートと呼ばれるピンク色のかわいい材
  • ⑤ゴンサロ・アルベス:東南アジアのレンガスに似ている。稀に黒い縞虎模様材がある。

⑤の材の名前を初めて聞いた時、まるでプロレスラーのような名前だねと話した事があります。

今まで木族の会(樹種辞典)で紹介した以上の杢目等魅力はありませんでした。唯一、もう少し良材に当たれば”行ける”という材があります。それは、マカカウバ(南米・紫檀:なんべいしたん)です。少し暗褐色の傾向が強い木です。

写真⑧の「B」は南米タガヤサンの素材です。「A」は東南アジアタイ産の本タガヤサンです。色彩がまったく違いますね。

「B:南米タガヤサンの素材」、「A:東南アジアタイ産の本タガヤサンの素材」

写真⑧:「B:南米タガヤサンの素材」、「A:東南アジアタイ産の本タガヤサンの素材」

まだまだもっと、もっと良材がブラジルから出て来るような気がいたしますが、ラカッポは幻(まぼろし)を見ているのでしょうか!!

ブラジリアン・ローズウッド(ジャカ・ランダ)のご紹介は以上です。続いてボコーテをご紹介いたします。

木族の会(樹種辞典)

ステッキの材料となる様々な貴重な樹種についてご説明いたします。

木族の会(樹種辞典)