杉(すぎ)は、スギ科・スギ属の常緑高木です。真直(まっすぐ)な幹が伸び、樹形が美しく”直(すぐ)なる木”から、杉(すぎ)と呼ばれました。日本固有種の植物で、北は北海道を除く(現在は植林が行なわれている)日本各地全土に分布します。日本の杉は、太平洋を黒潮の暖流地域の表日本杉と、対馬暖流が流れる鳥取、島根、福井、富山、新潟、秋田各県の裏日本杉と同じ種の杉ですが、2系統に別れます。日本すぎ属は、日本独特の樹木と思われていましたが、中国大陸の南部・中部にも(日本名かわいすぎ)、変種が自生している事がわかり、40年前から一時中国杉として日本に入荷がありました。私の処も何本か手掛けましたが、標高の差と思われる”木”の硬さがあり、”うづくり加工”等が困難な木との印象があります。
杉(秋田杉、日光杉、吉野杉、霧島杉、屋久杉)について
産地
ここでは一般材の”杉”ではなく、銘木杉についてお話しします。現在裏日本では、北は秋田杉(秋田県)・金山杉(山形県)・智頭杉(ちずすぎ:鳥取県)・若桜杉(わかさすぎ:鳥取県)・小国杉(おぐにすぎ:熊本県)など、表日本杉では、山武杉(さんぶすぎ:千葉県)・天城杉(静岡県)・気田杉(けたすぎ:静岡県)・三河杉(静岡県)・吉野杉(奈良県)・魚梁瀬杉(やなせすぎ:高知県)・日田杉(宮崎県)などです。ここに掲げた産地は、天然林と人工植栽林の混成された杉林です。
写真②は、旧山安江戸川工場にて撮影した岡橋林業産の吉野杉丸太です。写真③は、製材された同丸太材で、吉野製材会館に天井板として利用されました。品の良い中杢(なかもく)系の杢目色も淡いピンク系の色彩です。
人々に植えられた杉や、神社建立時すでに生えていた杉林。何百年も経た全国の社寺境内や裏山・参拝道に御神木として、またランドマーク的に、巨木・銘木杉は、全国に分布します。
有名な所は、日光三山杉(東照宮・二荒山・輪王寺)・日光街道杉(栃木県)・秋葉杉(静岡県)・鳳来寺杉(愛知県)・宇治田原杉(京都府)・伊熱神宮御山杉(みやますぎ:三重県)・春日大社杉(奈良県)・行者杉(ぎょうしゃすぎ:福岡県)、市房杉(いちふさすぎ:熊本県)・狭野杉(さのすぎ:宮崎県)・霧島杉(きりしますぎ:鹿児島県)・屋久杉(やくすぎ:鹿児島県)などが、銘木として昔から有名です。
写真④は、昭和52年全国銘木展示会(大阪)にて本1200万円で購入した霧島杉です(旧山安江戸川工場於)。丸太皮肌に絞りが細かく入っています。
写真⑤は、昭和62年に撮影した屋久杉の木挽です。私の父親と半天姿の私(33才頃)です。
写真⑥は、昭和62年に撮影した日光杉(東照宮林)の木挽です(旧山安江戸川工場於)。
写真⑤⑥共に、旧山安江戸川工場にて撮影しました。
写真⑦⑧は全銘展の様子です。3年前から各銘杉を自分で墨掛け木取りし、製材後、仕立てた杉前杢(まえもく)床柱、25本出品です。右に吉野杉中杢天井板12坪揃い・左に天城神代杉天井を従えての土俵入りならぬ小間出品材です。
中央の市房神宮杉の柱が第三十三回全国銘木展示会東京大会で農林水産大臣賞を受賞しました(平成元年11月7日:総指値合計2,640万円)。
写真⑨⑩は、大会当日のセリ市売風景です。買方が溢れんばかりの人だかりです。
写真⑪は、吉野杉中杢天井板です。昭和59年銘木大会にて、林野庁長官賞受賞品です。
受賞
杉の床柱を出品時の農林水産大臣賞と天井材出品時の林野庁長官賞です。加工技術・製材技術に対する評価としては、各賞が最高位とされています。
用途
杉の用途は、あまりにも有りすぎてここには書き切れない程です。割愛しますが、まず各建築部材に始まり、床ノ間材、茶室材の床柱・造作材・建具材・酒樽・お箸(利休箸)に至るまで生活に根差した製品類は数え切れません。
写真⑫は、床ノ間材の落掛です。向って左は屋久杉(無傷材)で原6cmの中に250年の年輪が有る品です。無傷・無欠点の屋久杉で、今まで扱った屋久杉の中では一番です。向って右は、日光杉笹杢目です。品の良い色彩です。
写真⑬は、向って左が杉柾目を中心に、床柱(四方柾)・落掛・天井板・障子・テーブルです。向って右が障子間仕切りです。市松付子(つけこ)障子・腰板(うねり無双)です。杉柾尽くしの”真”の床ノ間がある茶室です。
写真⑭は、向って左が板壁床(いたかべどこ)です。天井には、霧島杉網代石畳編みです。向って右が杉皮を使った珍しい天井の矢羽根編みです。霧島杉の網代は、京都北村美術館(北村邸、玄関天井)など作例が少なく、ヘギ板と異なり、挽皮を部屋の大きさに揃えるのが大変難しく、難易度が高い意匠です。
写真⑮は、向って左が掛け込み天井です。丸削り竿縁全て、中杢目(なかもくめ)尽くしです。杉柾目網代編みの茶室です。向って右が屋久杉です。原貼り合板製煤竹(ススタケ)押縁です。引手清水焼(山水柄)、茶室水屋脇道具入れです。
ステッキとしての杉材
結論を申し上げると残念ながら杉の大曲り作品は出来ません。スネークウッドで説明しましたが、俗に言うサクイ(ストリングチーズを曲げた時に起こる様な笹擦(ささずれ))が生じる為です。杉は針葉樹の中でも栂・松と違い、粘りと樹脂が少ない為です。樹脂が有ると言われる屋久杉も同様曲げられません。
写真①「A」は、セパレートタイプのシャフト加工か「B」杢目が有るハンドル取材なら製作可能ですが、打ち傷や過度の衝撃には、大変弱い所が有り、杉のステッキはコレクションやお洒落で持つ範囲とお考え下さい。
よくある質問と回答
A:特殊な仕立て林業として江戸時代中頃より、京都北山杉・奈良吉野杉が有名です。床柱・棰木(タルキ)・桁丸太(けたまるた)等広く数寄屋建築材に使われています。どうしても杉で、堅牢なステッキをお望みなら、雪洞(ぼんぼり)仕立、杉の台杉(だいすぎ)仕立の棰木(タルキ)3cm丸前後で、背割れ加工の無い物。そして杉の種類は、センゾク・シバハラ・ダイオウスギ等ありますが、その中でも”白杉”系の材は(持ち手の部分を少し丸味を付けての細工等)、磨き肌も美しく、これで自然杖(しぜんつえ)としては、嫌味無く使えます。また、径に合わせてハンドルを付けての使用も良いと思います。
杉(秋田杉、日光杉、吉野杉、霧島杉、屋久杉)のご紹介は以上です。続いてスネークウッド・蛇紋木(じゃもんぼく)をご紹介いたします。
木族の会(樹種辞典)
ステッキの材料となる様々な貴重な樹種についてご説明いたします。
ステッキ専門店【ラカッポ】について
ラカッポは、おしゃれなステッキ製作を手がけ国内外のお客様からご好評を得ている東京新木場のステッキ専門店です。株式会社山安によってプロデュースされています。ステッキのあらゆるオリジナルデザイン、意匠(銀細工・象牙彫刻・宝飾)に到るまでオーダーメイドによる製作を承ります。アンティークステッキ、思い出のステッキの手直しについても修理を承っております。
お問合せ・ご来店予約
ステッキ専門店ラカッポは、お客様のご要望をお伺いさせていただきながらフルオーダーメイドでステッキを製作、販売させていただいております。ご来店の際は、事前にご来店予約をお願いいたします。また、ご不明な点などございましたらお気軽にお問合せくださいませ。みなさまのご利用、お待ちしておます。