ツヤ・バールは、モロッコ・チュニジア・アルジェリアが主産地で、1部スペイン南部にも生育しています。上記の国々と並行に地中海を挟み、アトラス山脈(最高峰ツカプル山・4165m)の山々に生育するイトスギの1種から得られる”幻のバール材”です。
写真①は、めずらしい無垢材の大きなカット材です。コブ特有のいろいろな杢目が詰まっています。写真②は、天然皮に残る燃焼跡です。写真③は、ツヤバールのカット材です。
目次
ツヤ・バールについて
ヒノキ科のイトスギに近い種で、未だ和名はありませんが、日本ではニオイヒバ・サイプレスと同種類材と言われています。樹高は10m~15m、自然界では15m以上に達する材は稀で、アトラス山脈がかつて深い森が広がっていた時代と異なり、現在は乾燥地帯になっていて、本種は絶滅危惧状態です。
ほとんどの場合、ツキ板使いが主流で、無垢材の流通は無い状態であっても、小片サイズが多いです。
材の利用
ツヤの木に限っては、樹の幹材にはまったく価値が無く、半地下コブ・根コブ廻り・幹コブのみが貴重で、かつ高価とされています。
コブの人的育成
コブを取材するには、小枝等の切断・燃焼を加えるなどして、コブの成長を促すそうです。
木の接木はなどを試みるクラロウォールナットとは、真逆の取材方法です。何年にも渡り、人的なる行為を続ける事がこの材に求められます。
無垢材のほとんどは、小片カット材のみ流通しています。
コブ取り名人の職人集団
ツヤコブは、枝を切断小枝払い・燃焼枝については、すべて専門集団の今でも秘技とされています。現代でもモロッコの大西洋に面した風光明媚(ふうこうめいび)な港町、エツサ・ヴィラに昔から、ツヤバールだけを専門に扱う集団が存在します。今も材の需要がある為、目印を付けた木を求め、ロバやラバを使って、アトラスの山岳地帯を寝泊りしながら移動します。現在は小さなバール材が多く、大きなバール(ツキ板用)が見つかると、職人仲間達で入札を行う決まりがあるそうです。
何世紀にも渡り、アトラス山系に材を求めて採取した為、バール資源は先細り状態と言われていて、材の高価さももちろん、”幻のバール材”と言われる所以です。
ツヤバールの利用
そのほとんどはツキ板として処理され、高級家具の扉材として利用され、無垢材としてはほんの1握りの流通しかありません。主に小家具・宝石箱に使われ、ビリヤードのキューやペン製作に至るまで細かく利用されます。
ツヤバールの仕立
仕立は秘密のベールに包まれていますが、何世紀前の”山火事”がヒントになったと言われています。
ツヤの名前の由来
古ギリシャ語で犠牲(ぎせい)を意味し、5~6世紀頃、地中海貿易の覇者フエニキア人とギリシャがアトラス山脈から得られる銀・鍚・鉱物資源を巡り対立し、その後、ローマ勢力拡大と共に幾重にも戦争を繰り返しました。当時ギリシャ・ローマも公共施設(浴場)が広く普及しており、今で言う”アロマ効果”を求め、アルガン・オイル・ツーヤ精油の需要が高まり、船材のレバノン杉と共に争いが絶えなかったと言います。
写真⑦の材もバール特有のアイバール(粒杢)が集中しています。
コブの材面
色は写真の様に金褐色で時に赤色に近い色彩をしていて、バール特有の粒杢(アイ・バール)・バーズアイ・チヂミミ杢・ポメレ(布のヒダ杢)等が混ざりあったバール材です。
アトラスのもう1つの悲劇
動物の世界ではローマ時代、アトラス山脈は深い森に包まれていて、多くの動物が生息していたと言います。その中でもアフリカ大陸最大のライオン、アトラス・ライオン(黒い立派なタテガミ)を持つ種が多く生息していましたが、森の減少と乾燥化が進み、1922年に最後の1頭が狩猟の犠牲となり、野生種は全滅しました。この事も森の極度の乱伐がこの悲劇を生んだと言えます。アフリカ南部のケープタウンにも生息していた大型のライオン、ケープタウン・ライオンも絶滅しています。
直接には関係無いと思いますが、アトラスのツヤバール、南アフリカのピンク・アイボリー、奇しくも枯渇していく材は、同じ運命にならない事を祈るばかりです。
ツヤ・バールのご紹介は以上です。続いて籐(とう)をご紹介いたします。
木族の会(樹種辞典)
ステッキの材料となる様々な貴重な樹種についてご説明いたします。
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