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欅(ケヤキ)について
分布
欅(ケヤキ)は、日本では北海道を除く(現在は北海道でも植林されています)、本州・四国・九州・朝鮮半島・台湾・中国と温帯から暖帯に広く分布するニレ科の落葉高木です。樹高は、20m~30m・直径80cm~1mです。中には老木になると、径2m以上になる木も珍しくありません。花樹は、新葉と共に4月で、淡黄・緑色の花が開きます。老木は全国に有り、天然記念物に指定される古木・巨木も多くあります。外皮は淡褐色・ねずみ色で、若木は光沢がある木もあります。欅(ケヤキ)を県指定の県木にしているのは、宮城県・福島県・埼玉県です。
用途
建築材・外・内廻り、床ノ間材等、欅(ケヤキ)の産地を抱える北関東・東北にかけて、欅(ケヤキ)をふんだんに使った作例が多いです。
その他、船舶・車(山車)・機織(はたおり)・楽器(太鼓)・船の竜骨・杵・臼(きね・うす)・漆器碗・木地・生活に根付いた工芸・民芸品等、幅広く使われていますが、何と言っても建築では、仏閣(ぶっかく)に使われる事が多く、京都東本願寺・清水寺・舞台組の欅(ケヤキ)丸柱は特に有名です。一般の家でも、昔から大黒柱といえば欅(ケヤキ)材が圧倒的に使われ、ハウスメーカー現在のモダン住宅にも、欅(ケヤキ)古材等、センス良くいろいろな場面に使われています。
特殊な例で、かつて湾岸戦争時、ペルシャ湾の機雷除去に当たった自衛艦の掃海艇は、レーダーの関係で木造船でした。当時船の竜骨材から、側板材全てを納材したのは、新木場の大川けやき店です。
名前の由来
樹形(箒(ほうき)を逆さにした形)際立って目立つ木、け=すでに既・材の杢目の美しさが尊く目に焼き付く”やき”が転じて、けやきになったと言われます。諸説は、他に2~3有ると言われていますが、植物学上でも記録としては、はっきり残っていません。
欅(ケヤキ)と槻(つき)の違い
古来、万葉集に納められている歌には、欅(ケヤキ)を当時槻(つき)と読んでいます。今日の欅(ケヤキ)材とはまったく違う材なのかと言えば、植物図鑑にも槻(つき)と言う樹木はありません。欅(ケヤキ)=つきは同材ですが、材の持つ意味が違います。
写真⑤は、一般に言われる本欅(ケヤキ)材です。黄色の色彩が強い材です。
写真⑤は、今日、やさしい目・木味の良い、または、力目材を持った欅(ケヤキ)です。
写真⑥は、杢目はありますが、青色の色彩が強い木(青ケヤキ・ヤブケヤキ)です。水気を多く含んでいる場合が多いです。
写真⑥は、業界が言う所の青ケヤキ・藪(ヤブ)ケヤキ呼ぶ材です。樹皮も同じように青味がかった、または黒色の強い地味の悪い、または場所に育ったが強靭(きょうじん)なネバリを持ち合わせた木と言います。意味より、”強い木=つき”と言葉になったと言われています。地名の大阪高槻・埼玉岩槻など、矢を束ねたように乱立して立っている欅(ケヤキ)林を槻(つき)と呼びます。
産地
現在天然木では、青森県(十和田湖周辺)・宮城県・福島県(阿武隈山系)・静岡県(伊豆天城山系・大井川上流気田)・群馬県(奥利根)・三重県(熊野地方)・宮崎県(日向地方)各地の神社・寺院境内に生えている御神木と称されています。高樹齢木の出材が全国の銘木市のトピックスとなっています。また、民有林であっても、庭木・里木・街中でも、こんな所に生えていたのかと、皆が考えられない所に案外大径材がひっそりと欅(ケヤキ)は生え息付いています。
私の父親は、欅(ケヤキ)材が好きでした。写真⑦写真⑧は、静岡県天城山系から出た木の芯が片側に寄っている珍しい材で、直径竹差し1mは有る立派な材です。左が父で右が車の免許を取ったばかりの私(18才の頃)です。
ステッキとしての欅(ケヤキ)
キラリと杢目が光る重厚な杢目の良い物は、20m離れていても目に止まります。今の所は、ステッキハンドル材を主に取材しています。
写真⑨は、各デザインの欅(ケヤキ)ハンドル材です。ウレタン塗装・拭き漆塗り材質により選定します。
写真⑩の様に、杢が板巾いっぱいにある材からはステッキ曲り品には向きません。
写真⑪は、黄金色で小巾でチヂミ・タクリが有る材です。このような材が大曲りステッキに適しています。
ラカッポでは現在、欅(ケヤキ)の大曲り品の在庫はありません。
欅(ケヤキ)材の白太部分や赤味だけの材では、ラカッポとしてはステッキ製作はしません。写真⑪のような材の出会いがあれば、曲げたいと思います。
よくある質問と回答
A:この欅(ケヤキ)は、昭和62年の記念市に出材された材で、何と東京都国立天文台(三鷹市)の近くの住宅街の庭木だったそうです。東京天文台の敷地にも、径90cm近くの欅(ケヤキ)が何本もあるそうです。8m×径98cm、市場のセリで本代金600万円でした。当時私は欅(ケヤキ)をあまり手掛けていなかったので、友人のカネマサ工房高橋栄治氏と共同で買いました。
出品者から、セリ後頂いた名刺は、反社会団体のような名刺で、3代目伐採師○○と書かれていて、代々都下・練馬区・杉並区・板橋区・中野区等の都会を中心に、庭師や庭木の処分を多く手掛けた中の1本だったと言われています。この材は、まあまあも杢目が出て、貼物の床廻り品として、木挽した盤類は、全て名古屋の当時片桐銘木単板工業へ送られ、ベニア材としてトータルでは何とか儲かりました。
話に後談があり、セリ時の前に銘木買付人にだいぶ値を叩かれていたそうです。後日気持ち良く600万円でセリで買付けて頂いたと、現金30万円(5%)を私の店に、わざわざ届けに来てくれました。こなな事は永く業界に居て、これが唯一の1件です。
A:写真⑬の巨木のケヤキ材は、日本三大薬湯(草津・有馬・松之山)の一つ、新潟県十日町市の松之山温泉にあった木で、平成9年に縁があって、東京銘木協同組合、役員有志による協同買付で落札した木です(当時8,000万円近くしたと聞いていました)。
この木のエピソードが凄いです。松之山温泉の始まりは、約700年以上の歴史があり、その当時からこの木も共に立っていたそうです。坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ:平安前期の武将・征夷大将軍)が東征し、敵の蝦夷(えみし)の矢傷を負った為、この地の湯で浸り、傷を癒したと言われ、自分の馬をこの木に繋いだと言われています。
木自体は立派ですが、とにかく歴史有る老木です。何回か落雷や豪雪の重みで大枝が何ヶ所か折れ、人間に例えると、満身創痍(まんしんそうい)状態です。芯が大洞(オオウロ)でした。表の杢は、タテ振れが有り、ベタ玉杢の材、木挽師の林以一氏の力で無事大盤が7丁程取れ、役員・買付人も安堵した模様でした。同年の組合創立50周年を記念した市で、マスコミやこの材を業界新聞も含め2ヶ月前から宣伝していました。写真⑭がその時の松之山、欅(ケヤキ)丸太が入ったポスターです。
私も父も、この材を買うつもりはありませんでした。市日10日ぐらい前になって、親しい木挽の林さんから電話が有り、自分の知り合いの四国の御客さんが、この欅(ケヤキ)材を買いたいので、代理買いをして欲しいとの事でした。その時は、せいぜい買っても1千万円以下のことだろうと軽く考えていたのですが、会ってみると、出品している欅(ケヤキ)盤7丁全てを買って欲しいとの事でした。これには当方も驚きました。7丁といえば、1億円以上です。
当時山安は、大阪銘木協同組合員、大西利保商店を中心に、杉丸太・盤類の買付が約6,000万円、その他組合からの仕入れで1年間で1億円を少し越える程度です。それが1回の代理セリで、1億円はあまりにも無茶・無謀です。それでも林さんは、私が保障するのでと念を押されました。この時買われる方のプロフィールは(ここではハッキリとお名前は申し上げられません)、四国の方で手広く養殖業(魚・ひらめ)をしていて、この方が住んでいる漁師町では、網元では正月に来客者に食事を大盤振る舞いし、叶器・器・焼物等並べる大テーブル材を競うように見せ合いをする風習があるそうです。旧家には、巾1m~1m50cmぐらいの四国五葉松を中心としたテーブルは各戸持っているそうです。松が枯渇した為、新たに欅(ケヤキ)材をと言う事でした。たまさかマスコミに掲った記事をたよりに、林さんに行き着いたと言う事です。
20日市日の当日まで、当方は大変でした。何度も市場へ寄り、他社の動向・情報を仕入れ、当日セリに立つ時の位置決め、セリの掛け声の手順、人の多さを見込んでどこの丸太の上に乗るか?セリのホック(第一声の値)を考え、セリ上がる数字の順序など、セリを知っている方は、お分かりかと思いますが、大きな勝負になりますので、一週間程、他の仕事が手に付きませんでした。
お金の面は、買えるだけ当組合の市日まで振り込みの約束、市日当日午前中に1,500万円・1,000万円、昼食後500万円、500万円と立っている時、組合の会計担当者中村氏が耳元で振り込まれた金額を耳打ちしてきます。
セリが始まる前まで、3,500万円しか集まらず盤1丁だけ狙いを定め、何とか2,900万円で落札した盤が写真⑮の手前の盤、2m20cm×1m30cm×9cm盤です。
写真⑯中央の盤、4,000万円を筆頭に、3,000万円クラスが並んでいます。手前は脇から取材された小割り材です。小割材と言えども100万円単位です。
お金は全て組合に振り込んだ額の中で決済しました。前に話しましたが、大洞(ウロ)が有り、木裏からのウロ割れ・写し割れが心配です。その前にこの盤を納める運送用パレット(58,000円)を作り、当時私の所に来た修業の子に、何回もボンド(割れ止め)を塗り、養生しました。日本通運・日本トラック以外、美術品並みに運んでくれるトラックが無く、取り引きのあった西濃運輸(潮見支店)に頼むと、鼻から笑われ取り合ってくれません。名古屋の本店に事情をお話ししたら、潮見の店長が飛んで来て、無礼を詫びて、まずこの品の価格が1丁3,000万円する事を市場で説明し、他の盤の高値買付票を見て、西濃運輸さんも納得し、信じてくれました。配達時アルミボディーの4tトラック(エアコン・ファン付き)で、ネクタイを締めた運転手さん2人付きです。大阪まで行き、フェリーで高松を経由して御客様までのコースでした。当方は事故も含めて心配で、途中途中、電話を入れさせての配達です。御客様に無事届けて、免許証・保険証の確認、荷渡し確認判取り作業まで大変でした。無事納品した時は、本当に放心状態でした。
1週間ほど後に、林さんが来社され、10%のマージン300万円を御客様から預かって来られ、当方は運賃・保険・パレット代含め85万円程かかりましたが、半分だけ頂きました。さて、御客様は、私の所へ来た時、大事そうに大きな荷物を持っており、中にシャガールの絵画を池袋西武の美術画廊へ行く途中、実家に税務署の査察が入り、奥様がヘソクリで預金していた銀行(四国には東京みたいに何十行も無い)から、あっち、こっち自分で運転しては、各銀行・信用組合に行き、主人の指示の金額を振り込んでいたそうです。だから、市日当日、セリ開始に間に合わなかったそうです。もし1億以上振り込まれていたら、今回の経験の7倍の重圧が私に跳ね返ってきます。
私は改めて買えなかった事に感謝しましたと同時に高額の素人御客様代理買いは、この後一切していません。正月TVを見ていますと、青森大間のマグロの買付の喜代村さんですが、マグロを買うのはマグロ中卸し問屋同士が、お互い信頼で結び合っています。いつだったか、3億円の高値が出ました。もし喜代村さんが無名のお寿司屋さんだったら、中卸し問屋の方は3億円で買えるだろうか?そんな事を考え、この事を思い出しながら、TVを見ています。
この欅(ケヤキ)材の市日当日、普段市日に来ていない方も話題性から約200人が集まりました。中には築地の有名な水産会社のマーク入り半天を着た人、この方は何の職業か分らない人々、組合員に値を任せてのセリスタートです。ポンポンと値が上がり、全量売り切るのに40分程度かかりました。私の買った2,900万円も含めて、総額1億6,000万円の売上があった創立50周年の記念市です。バブルが崩壊した平成3年から世の中6年しか経っていません。魑魅魍魎(ちみもうりょう)と化した木に取り憑かれた人々が居ました。
この当日四国の御客様は、なぜか帝国ホテルに居ました。坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の怨霊か?この後しばらくして、この材を買付けた銘木店2社が組合から退会しています。
欅(ケヤキ)のご紹介は以上です。続いて欅(ケヤキ)材のコブをご紹介いたします。
木族の会(樹種辞典)
ステッキの材料となる様々な貴重な樹種についてご説明いたします。
ステッキ専門店【ラカッポ】について
ラカッポは、おしゃれなステッキ製作を手がけ国内外のお客様からご好評を得ている東京新木場のステッキ専門店です。株式会社山安によってプロデュースされています。ステッキのあらゆるオリジナルデザイン、意匠(銀細工・象牙彫刻・宝飾)に到るまでオーダーメイドによる製作を承ります。アンティークステッキ、思い出のステッキの手直しについても修理を承っております。
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ステッキ専門店ラカッポは、お客様のご要望をお伺いさせていただきながらフルオーダーメイドでステッキを製作、販売させていただいております。ご来店の際は、事前にご来店予約をお願いいたします。また、ご不明な点などございましたらお気軽にお問合せくださいませ。みなさまのご利用、お待ちしておます。